母について
女の子は母親と仲が悪い、というのはよく聞く話ですが、御多分に洩れず私もいつも母親と喧嘩していました。一人暮らしをするようになってようやく、東京に遊びに来た母とショッピングやお茶を楽しめるようになりました。
母は足が悪いのですが、公演があると知らせると必ず夜行バスで7時間かけて東京に芝居を観に来ます。遠方から毎月来てもらうのは申し訳ないので、公演があると言わない時もあります。
アマチュアの合唱団に所属していた経験から、チケットノルマによる金銭的負担を心配しているのだということは薄々感じていました。
母は音大に行く夢を諦めて働いて、代わりに叔母を四年制の大学に行かせてあげてほしいと祖父母に頼みました。私は両親に無理を言って実家を出て、大学で芝居を続けています。
同じように夢を持ちながら全く違う選択をした(することができた)私に対して、複雑な思いはあることと思います。それでも黙って応援してくれる母に対して、私はどういう答えを出すべきかずっと決めあぐねています。
どこでもいいから安定した職について、適当な年齢で結婚してほしいという話を何度も聞きました。同じように東京の大学に行った兄は、大学を辞めて実家に戻りました。それはそれで正しい選択だと思うけれど、心配せずにはいられないのだと母は口癖のように言っています。
芝居で食べていくというのは荒唐無稽な話かもしれません。飛び抜けて芝居が上手いわけでも、顔がすごくかわいいわけでもないけれど、夢を諦めきれないだけなのだけれど、それでも私は芝居が好きで、芝居を好きな人たちが好きです。
小さい頃、父に「持病(アトピー性皮膚炎)がある以上お前はお笑い芸人くらいにしかなれないよ」と言われたこと、地元で祖母がやっていた地歌舞伎に肌が弱いからという理由で出られなかったこと、楽しげに演技をする兄をただ見つめていたこと、未だに昨日のことのように思い出します。
きっとどんな選択をしても後悔はあるだろうけど、私はやりたいことをやりたいのです。
いつも心配ばかりさせてしまってごめんなさい。
100円あったら名作映画が見られる時代に、高いお金をとって舞台をやります。可愛くなくても、上手じゃなくても、肌が綺麗じゃなくても、背が高くなくても、お金がなくても、あの日の兄のように、なりたかった自分になるために私は頑張るよ。って、いつかきちんと伝えられたらと思います。
だからいつか、お金が心配だからじゃなく、私の姿を観る為に来てください。
足の手術、無事に終わりますように。
なんちゃって。